連続体仮説の勉強その4:構成可能性公理と一般連続体仮説
前回は,選択公理(AC)と一般連続体仮説(GCH)をZFに付け加えても(ZFが無矛盾なら)矛盾しないことを示すゲーデルの証明を追うための準備と称して,とというふたつの宇宙を紹介しました.が冪集合をとるという操作をベースに,反復的な操作によって階層を積み上げていってできる宇宙だったのに対し,は手持ちの対象から定義できる集合をつくっていくという操作をベースに,反復的な操作によって階層を積み上げていくとできる宇宙でした.ZFでは正則性公理のおかげで全ての集合がの何らかの階層に属することが示せます(任意の集合は整礎的).では,に関して同じことが言えるでしょうか? つまり,あらゆる集合が構成可能であるといえるでしょうか?
ゲーデルが示したのは,ZFにおいてあらゆる集合が構成可能であるなら,その場合,ZFではACとGCHが成り立つということです.この「あらゆる集合が構成可能である」という主張は,集合全体のクラスがと一致するということなので,標語的にと書かれ,構成可能性公理(Axiom of Constructibility)と呼ばれます.つまり,構成可能性公理 を満たすZFモデルではACもGCHも真になることをゲーデルは証明したわけです.
では, をみたすようなZFモデルは存在するのでしょうか? 存在すれば,上記の結果から,ACとGCHを真にするZFモデルが存在することになりますので,そうしたモデルの構成が目標となります.ここで,をみたすZFモデルを具体的に与えられれば申し分ないですが,第2不完全性定理により,ZF自身によってそのようなモデルを与えることはできません.したがって,ZFのモデルが存在すると仮定した上で,そのモデルをつくり変えて,をみたすようなモデルをつくるという方針になります.つまり,ZFが無矛盾であるという仮定のもとで,を真にするZFモデルが存在すると言うことを目指します.このことを示すためには,次のふたつが成り立てば十分です.
- がZFの公理であるとき,はZFで証明可能である.
- はZFで証明可能である.
ここで,論理式と1座述語(述語記号だけでなく,ただ1種類の自由変項をもつような論理式全般)に対してとは,におけるをに,をに置き換えたもので,のへの相対化(relativization)と呼ばれます.つまり,の量化子の範囲をであるようなものに制限するということです.
さて,「ZFが無矛盾で,かつ上のふたつの条件が成り立てば,を満たすようなZFモデルが存在する」とはどういうことでしょうか.ZFが無矛盾だと仮定します.このとき,完全性定理によってZFのモデルが存在します(以下,完全性定理に基づいて「証明可能」と「真」を自由に行き来します).ここでとし(はにおける述語の解釈),をのへの制限として,構造を考えると,これは上記2条件のもとで, を満たすZFモデルになります.どういうことでしょうか.
をZFの公理とします.これがで真となるためには,量化の範囲をと解釈したときにが真になればよいです.ところで,はの要素の中でに属する要素を集めたものでした.ここで上記条件が成り立つと,がZFで証明可能で,したがって,で真になります.これは量化の範囲をと解釈した際にが真になることを意味します.よって,はで真となります.同様に,も,がZFで証明可能であるという条件のもとで,で真になります.したがって,は上記2条件のもとで,をみたすZFモデルとなります.
かくして,ゲーデルの証明のアウトラインが見えてきました.それは3つのことを示すことを目標とします.まず,ZFの公理のへの相対化がすべてZFで証明できること.続いて,のへの相対化がZFで証明できること.最後に, AC GCHがZFで証明できること.次回以降でこれらの証明を追っていきます.