ひかりちゃんの悲観的絵日記

絵日記要素はあるかもしれないしないかもしれない。

連続体仮説の勉強その2:順序数・基数・アレフ数

 前回は超限再帰定理図式の説明をしたところで終わりました.

超限再帰定理図式

>を集合A上の整列順序とする.このとき,\gammaが集合全体のクラス上で定義された関数クラスならば,Aを定義域とする関数hであって,t \in Aに対してh(t)=\gamma(h\restriction{seg \ t})となるような関数hが唯一存在する.*1

今回はこれを使って順序数をつくります.

 Aを整列集合とします.超限再帰によって次のような関数Eを構成します.

  • E(t)=ran(E \restriction seg \ t)

ここでran \ XXの値域です.関数クラス \gammaとして,集合に対してその値域を返すようなものを入れているわけですね.

 たとえばA= \{ 2,3,7 \}とし,Aは通常の自然数の順序に従って順序づけられているとします. E(2)=ran(E \restriction seg \ 2)=ran(E \restriction \varnothing)=ran \ \varnothing=\varnothingです.次に,E(3)=ran(E \restriction seg \ 3)=ran(\{\langle 2, \varnothing \rangle \})=\{\varnothing\}となり,最後に,E(7)=ran(E \restriction seg \ 7)=ran(\{ \langle 2, \varnothing \rangle, \langle 3, \{ \varnothing \} \rangle \} = \{ \varnothing, \{ \varnothing \} \}となります.

 この例ではran \ E= \{ \varnothing, \{\varnothing\}, \{ \varnothing, \{ \varnothing \} \} \}ですが,これはフォン・ノイマン流の自然数定義における3です.ところで,Aの濃度は3でした(有限濃度は自然数によって定義されているとします).こうして見ると,一般に整列集合Aに対してこのような仕方でEを定義すると,ran \ EAと濃度が等しくなるのではという予想が立ちます.実際そうです.

 さらに,このように作られたran \ Eに対しては,\inによって順序を入れることができ,しかもこれは整列順序になります.さらにさらに,s, t \in Aに対してs \lt t \Leftrightarrow E(s) \in E(t)が成り立ち,また,E:A \to ran \ E全単射です.要は,\langle A, \lt \rangle\langle ran \ E, \in \rangleは順序同型で,Eは同型写像ということになります.

 というわけで,整列集合Aに対して上のような仕方で関数Eを構成すると, ran \ EAの順序構造だけを抜き出したような集合になることが分かりました.この ran \ EのことをAの(その順序に関する)順序数(ordinal number)と言います.ある集合が順序数であるとは,それが何らかの整列集合の順序数になっていることです.

 これで順序数の定義ができました.めでたしめでたし.というわけにはいかなくて,順序数全体のクラス(これは真のクラスです)の順序構造を調べるとか,順序数全体のクラス上に演算を定義するとか,色々やらなきゃいけないのですが,とりあえず順序数の性質については必要になったらその都度振り返ることにしましょう.現時点で押さえておきたいのは,順序数全体のクラスが\inによって整列順序づけられているということです.これのおかげで順序数全体のクラス上で再帰ができたりします.後は,任意の順序数は自分より小さい順序数を全て集めたようなものになっているとかですね.

 順序数のクラス上の超限再帰は後で使うので見ておきましょう.

順序数のクラス上の超限再帰図式

\gammaが集合全体のクラス上で定義された関数クラスならば,順序数全体に対して定義された関数クラス\phiで,順序数\alphaに対して\phi(\alpha)=\gamma(\phi \restriction seg \ \alpha)なるものが存在する.

ここでは分かりやすさを優先してちょっと雑な書き方をしています.\phi \restriction seg \ \alphaって何やねんって話ですが,これは\alphaを定義域とする関数で,その定義域のいたるところで(\alphaより小さなあらゆる順序数について)\phiと値が一致しているものです.そこだけ注意すれば,超限再帰図式における整列集合が順序数全体のクラスに置き換わり,存在を主張されるのが関数ではなく関数クラスになったバージョンだということが分かると思います.これはフォン・ノイマン宇宙Vの構成に使ったりしますが,今回は後でアレフ数の構成に使うので,具体例はそちらで見ることにします.

 ついでに基数(cardinal number)も定義しておきましょう.集合Aを考えます.整列可能定理(これは選択公理と同値)により,A上の整列順序が存在します.よって,Aの順序数をとることができ,これを\alphaとします.\alphaとの間に全単射が存在するような順序数の中で最小のものをcard \ Aとし,これをAの基数と呼びます(「\alphaとの間に全単射が存在するような順序数」全体のクラスは集合です.そのようなクラスはたとえば\alphaへの単射がとれないような順序数\betaをとってくれば(ハルトークスの定理)それで上から押さえられます.順序数全体のクラスは整列順序づけられているので,この集合(\alphaがいるので空でない)は最小元をもちます.つまり,\alphaとの,したがってAとの間に全単射が存在するような順序数の中で最小のものが存在し,これがAの基数です).このように,選択公理を仮定すると,任意の集合に対してその基数として何らかの順序数を割り当てることができます.

 最後に,アレフ数を定義しておきましょう.先ほど紹介した,順序数全体のクラス上の再帰を使います.以下,関数クラス\alephの引数は下付き文字で表します.\alphaより小さな任意の順序数\betaについて\aleph_{\beta}の値が分かっているとして,\aleph_{\alpha}の値は「ran(\aleph \restriction seg \  \alpha)に属さない最小の無限基数」という風に決められます.なお,そのような基数は常に存在します.順序数のクラスは,それが何かしらの順序数で上から押さえられるとき,かつそのときに限り集合です.ran(\aleph \restriction seg \  \alpha)は順序数の集合なので,何かしらの順序数\deltaで押さえられ,また,無限基数全体のクラスは上に非有界なので,\deltaより大きな何かしらの無限基数\lambdaが存在します.\lambda以下の無限基数でran(\aleph \restriction seg \  \alpha)には属さないものの集合は,少なくとも\lambdaがそれに属するので空でない順序数の集合であり,したがって最小元をもちます.

 アレフ数は単調だったり,あらゆる無限基数がアレフ数だったりします.アレフ数は無限基数を小さい順に列挙していったものということになります.後続順序数や極限順序数に関しては分かりやすい等式が成り立ったりしますが,ここでは割愛します.

 0は最小の順序数です.なので,アレフ数は\aleph_{0}から始まります.これは「ran(\aleph \restriction seg \  0)に属さない最小の無限基数」ですが,ran(\aleph \restriction seg \  0)空集合なので,これに属さないというのは何の制限にもなっていません.したがって,最小の無限基数を選べばよいわけで,\aleph_{0}=\omegaとなります(\omega自然数全体の集合).\aleph_{1}ran(\aleph \restriction seg \  0)=\{ \omega \}に属さない最小の無限基数ですから,\omegaの次に大きい無限基数となります.それってどんな濃度でしょうね.ここで「自然数の濃度の次だから,実数の濃度でしょ」と言うのが連続体仮説の主張です.ZFCでの連続体仮説の表現は「card \ \mathbb{R} = \aleph_{1}」ということになります.

 やっと連続体仮説に戻ってこられました.次回から連続体仮説のお勉強に入れるといいですね.

*1:cf. H. B. Enderton, Elements of Set Theory, Academic Press, 1977, p. 177.