ひかりちゃんの悲観的絵日記

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連続体仮説の勉強その3:フォン・ノイマン宇宙Vとゲーデルの構成可能宇宙L

一般連続体仮説

 前回は順序数のクラス上の再帰アレフ数を定義したところで終わりました.順序数\alphaに対して\aleph_{\alpha}は,\beta \in \alphaなるどの順序数\betaに対しても\aleph_{\beta}とは異なるような最小の無限順序数です(要はそれまでのアレフ数に出てこなかった順序数の中で最小の無限順序数).

 さて,このアレフ数を使って,連続体仮説(CH)のより一般的なバージョン,一般連続体仮説(Generalized Continuum Hypothesis, GCH)を表現すると次のようになります.

一般連続体仮説(GCH)

任意の順序数\alphaに対して,{\rm card} \ \mathcal{P} \aleph_{\alpha}=\aleph_{{\rm suc}(\alpha)}

ここで{\rm card} \ AAの基数,\mathcal{P} AAの冪集合,{\rm suc}(\alpha)=\alpha \cup \{ \alpha \}です({\rm suc}(\alpha)\alphaの「次の」順序数です).ここで\alpha0を代入すると,カントール連続体仮説が得られます({\rm suc}(0)=1).

 ゲーデルが示したのは,ZFが無矛盾ならばZFのモデルで選択公理(AC)とGCHを真にするものが存在するということでした.今日はその証明の大まかな流れを確認するための準備をします.

フォン・ノイマン宇宙V

 ゲーデルの証明を追う際,フォン・ノイマン宇宙Vについておさらいしておく必要があります.順序数\alphaに対して,再帰的にV_{\alpha}=\displaystyle\bigcup_{\beta \in \alpha}{\mathcal{P} V_\beta}と定めます.つまり,\alphaより小さな任意の順序数\betaに対してV_\betaの値が分かっているとき,V_{\alpha}の値は,そのようなV_\betaの冪集合を全て合併したものです.V_{\alpha}については次の性質が成り立ちます.

  • V_0=\varnothing
  • V_{{\rm suc}(\alpha)}=\mathcal{P}V_\alpha
  • 極限順序数\lambdaに対して,V_{\lambda}=\displaystyle\bigcup_{\beta \in \lambda}{V_\beta}

ここで極限順序数(limit ordinal)とは,何らかの順序数の後続者として表せない順序数です.

 各V_\alphaに関しては,\alpha \in \betaならばV_\alpha \subseteq V_\betaが成り立ったり,任意のV_\alphaが推移的(transitive)だったりします(i.e. x \in V_\alpha \Rightarrow x \subseteq V_\alpha).それ以前の階層を取り込んで拡大していく逆さピラミッド状のヒエラルキー的な図がイメージされます.また,集合xに対して,x \in V_{{\rm suc}(\alpha)}となるような最小の順序数\alphax階数(rank)と言います.集合xがあるV_\alphaに属しているとき,x整礎的(well-founded)であると言われます.

 このようなV_\alphaの階層全体がなすクラスVはある意味でZFのあらゆる集合がそれに属するような宇宙であると言えます.なぜなら,正則性公理(regularity axiom,「空でない集合は自身と共通部分をもたないような要素をもつ」)のもとで,あらゆる集合が整礎的であることが,つまりどんな集合もVのどこかしらの階層に属することが示せるからです.このようなVの階層を重ねることによって作られるものこそが集合のクラスだという反復的集合観(iterative conception of set)は,集合の直観的なイメージを与えるものとして,数学の哲学においてもしばしば話題になります.

ゲーデルの構成可能宇宙L

 ゲーデルの証明を追う際には,もうひとつの宇宙が登場します.構成可能宇宙Lです.これは様々な点でVと似ています.順序数\alphaに対して,再帰的にL_\alpha=\displaystyle\bigcup_{\beta \in \alpha}{{\rm def}(L_\beta})と定義します.ここで,集合Aに対して{\rm def}(A)は,Aの要素たちだけに言及しながら集合論の言語で定義できる集合全体の集合とAの合併です(これは結構雑な言い方です.後で必要になったら正確な定義を改めて書きます).たとえば,自然数全体の集合\omegaに対して,偶数全体の集合Xx \in X \stackrel{\mathrm{def}}{\Leftrightarrow} (\exists n \in \omega) ( x = 2 n)という風に定義できますから,X \in {\rm def} (\omega)です.つまり,\alphaより小さな任意の順序数\betaに対してL_\betaの値が分かっているとき,L_{\alpha}の値は,そのようなL_\beta上で定義可能な集合全体の集合やL_\betaを全て合併したものです.L_{\alpha}については次の性質が成り立ちます.

  • L_0=\varnothing
  • L_{{\rm suc}(\alpha)}={\rm def}(L_\alpha)
  • 極限順序数\lambdaに対して,L_{\lambda}=\displaystyle\bigcup_{\beta \in \lambda}{L_\beta}

 各L_{\alpha}も推移的です.何らかの順序数\alphaに対して,L_{\alpha}に属するような集合は構成可能(constructible)であると言われます.

 Vにおいて新しい階層をつくる際の基本操作が冪集合を取ることであったのに対し,Lでは論理式による定義によって新しい集合をつくっていっています.冪集合を取るという操作は超越的とか言われますが,それに比べて論理式による定義は,あまりヤバいことができないような,穏当な感じがします.そんなわけで,LVをおとなしくしたイメージです.

 さて,VLという登場人物が出揃いました.次回は,これらの宇宙を使ってゲーデルがいかにしてZF+AC+GCHの相対的無矛盾性を証明したのかを概観します.