ひかりちゃんの悲観的絵日記

絵日記要素はあるかもしれないしないかもしれない。

『無能なナナ』アニメ第11-12話感想

 この記事はアニメ『無能なナナ』第11-12話の感想記事です。原作のこの先の展開のネタバレはありませんが、既にアニメ化された箇所に関する原作との比較コメントは含むのでご注意ください。なお、直接的なことを言わずとも「原作を読んで先を知っている人間がこういうコメントをしている」ということ自体がある種のネタバレ的情報をもたらすということもあるかもしれませんので、そのあたりもご了承ください。

 最初にちょっと振り返り的な話をしましょう。私は前半において人間ドラマを描くのに対してかなり禁欲的だったのが『ナナ』のいいところのひとつだと思っています。アニメで言うと第3話くらいまでは作品の基本的な流れの紹介みたいなところがありますから、そのあたりまではキャラを特に掘り下げない作品も多いと思うのですが、それ以降では登場人物の内面に触れるシーンがちょっとずつ増えてくるというのがある程度普通かなと思います。ところが『ナナ』は第10話になるまでほとんどナナのバックグラウンドを描かなかったし、ナナが殺人に対して疑問を覚えるような描写もごくわずかでした。尺の大半において、いわば泣ける系のエピソードを縛ってきたわけです。その一方で、ナナを単なる殺人マシーンだと思わせないための細かい描写をちょくちょく挟み、また、ミチルとの絡みを小出しにするなどして、「見えざる刃」編への準備は着実にしてきました。こうした積み重ねがあるので、第10話からの展開においては「いよいよナナの内面がクローズアップされる」ということ自体に重みが備わっています。

 他方で、「見えざる刃」編に入ってから『ナナ』という作品が急に感動系に路線変更したというわけではありません。一見すると第11話のミチルの日記や、第12話のヒトミのエピソードはそのような路線に乗っているようですが、あれらのシーンの役割は視聴者を感動させることではなく、ナナのミチルに対する態度が段階的に変化していく様を描くところにそのポイントがあると思います。言い換えるなら、ミチルの日記や過去エピソードが揺さぶろうとしているのは第一にはナナの心であって、視聴者の心ではありません。そのため、視聴者はある意味でまだ冷徹にナナの言動を眺めることができ、その点ではこれまでのエピソードとそう変わらない視聴態度を維持できます。

 お話の作り方においても、「見えざる刃」編では、「ミスリードと裏切り」「小さめの謎の提出とその早めの解消」を積み重ねて真相や結末に近づくといった、これまでとそう変わらないパターンが踏襲されているように見えます。特に、「見えざる刃」に入る直前に橘がミチルに化けていたことは、今回のエピソードにおいて「このミチルは実は橘なのでは」といった警戒心を視聴者にもたせますし、「ミチル自身にも何か裏があるのでは」とか、ナナ自身がそうであったように、「ミチルはナナの犯行に気づいたのでは」といった疑念を抱く視聴者も多いと思います。それに対して真実は日記のシーンや過去エピソードが示すところで、こうした流れは「謎&ミスリードからの解決」といった、従来のサスペンス的エピソードと共通のものです。

 これに対して面白いのは、これまでの「真実」や「結末」が残酷だったりショッキングだったりすることが多かったのに対し、今回は「ミチルはいい人だった」という、ある面では平和な答えがオチに来ているところです。いわばユウカ編と逆の流れですね。ユウカ編だと、ユウカとシンジの過去エピソードが最初にあって、ナナ自身ユウカに対してはじめは「悪い人間ではなさそう」という印象を抱きます。ところが次に「シンジの死体を操って恋人関係を演じている」というユウカの狂気が明らかになり、オチはそれどころか「シンジを殺したのはユウカ自身だった」というもので、視聴者としては「ユウカはなんてヤバい奴なんだ!」という気持ちで終わります。これに対してミチルについては、ミチルに関していくつかの線での疑念が拭い切れないところから始まり、ミチルがナナに対して何の疑いももっていないことが徐々に明らかになり、「ミチルはただのいい人だったんだ!」で終わります。『ナナ』が第9話くらいまでで培ってきたサスペンスの型に、佳境に入って逆に平和的な人情系のエピソードを乗せるというギャップが面白さを生んでいます。また、この「ミチルは善良な人間」という真実がこれまでのどんな敵よりもナナを追い詰めているというのが皮肉ですね。(なおミチル編の始まりにあたる第10話においてユウカへの言及(「裏があるのだろうな」)があるというのは、メタに見ればやはりユウカ編とミチル編の対比的な構造を示唆しているのかなと思います。)

 では題材やオチの性格が変わっただけで、視聴者は今までと同じく冷徹な傍観者の位置にいるのかというと、そうでもなくて、ナナとミチルが鏡を見て笑い合うシーンはいわば視聴者にも届くように描かれている気がします。基本的に『ナナ』は様々な陰謀が渦巻く作品であり、視聴者への見せ方としてもミスリードを多用して信用ならないところがありますが、このシーンだけはそういう駆け引き無しに、幸せなシーンとして描かれているように思えます(原作でもそう感じましたが、アニメで色がつくと余計そのように感じられました)。ただ、そうした雰囲気が現れるのは本当に一瞬だけで、その後のミチルとナナのやりとりでは「一度ミチルへの感情を殺すべきだな」とあり、殺人者としての使命とミチルへの個人的な感情の葛藤という、物語の大きな枠に再び収まるような流れになっています。そういう刹那性もあり、件のシーンはとても美しいと感じました。

 さて、これまでは原作だけ読んでもできる話をほぼしてきましたが、アニメならではの点も含めていくつかコメントして終わります。

第11話

  • 声帯模写能力はやっぱりアニメで見ると面白い(少し棒読みっぽい演技なのも良かった)
  • 「たとえば遠くにある金属製品を引き寄せたり」からのナナのポーズはアニメ独自のものでかわいい
  • フウコに吹っ飛ばされるキョウヤのシーンは血痕など原作より派手になっていて面白かった
  • 「現場の窓は開け放たれていたな」ハモり!
  • 「いったん解散だ」「分かりました」のナナの「分かりました」が妙に優しい声
  • 「わたしの両親が殺された話をしたばっかりですよね?」作画が良い
  • 「なんのためにお前さんを連れていったと思ってる」舌打ち好き
  • コンタクトレンズのケースに毒を混ぜておけばいいんだ」原作でも好きなセリフで、アニメだと顔がより邪悪に
  • 「モグオたちぼんくら四人組は」かんたんナナしゃん
  • 日記のシーンのBGMは入りがもう少し遅くてもよかったかもしれない
    • 音色がヴィオラっぽいと一瞬思ったけどやっぱりヴァイオリン?(音域的にはどっちでもありえる)
  • 「君を殺人鬼にしたてあげているであろう何者かをランチに誘いたいだけだよ」良い演技!
    • ところで改めて見るとミチルの日記は橘が机の上に設置したっぽい(ミチルが置きっぱなしにしただけだとすれば開かれていたページの箇所が不自然だし、橘は日記を読んだことがある風だった)

第12話

  • 食堂のガラス破壊はナナがミチルをめちゃくちゃ心配しているのが行動から伝わって好き
  • そういえばこの学校の学年制度はどうなっているんだろう(モグオの子分たちはモグオと同い年なのだろうか?)
  • 「気がつきました?」作画が良い
  • 「こんな怪我は放っておいても治ります!」良い演技!
  • 上にも書いたけど鏡を見て笑い合うシーンはほんと良い
  • 「その結果彼女の寿命が縮むとわかっていても助けたいと思うくらいに」動物に優しい面はあるけど善人ではなさそう
  • 「ナナはおれの家族も同然なのだから」藤原啓治さんの出演に超びっくり
  • 「熱があったせいで味覚がまだ戻っていないんでしょうね」ナナはもともとこういうキャラだったのかなと思う
  • 「スナック菓子ばっかり食べてたら」ミチルの台詞はここからの受け売り
    • ヒトミ役の清水彩香さんの演技良かったです

 最終話に関しては尺が気になって仕方ないのですが、とにかく楽しみです。早く観たいです。