ひかりちゃんの悲観的絵日記

絵日記要素はあるかもしれないしないかもしれない。

『無能なナナ』アニメ第4話までを振り返る(※原作ネタバレあり)

 テレビアニメ『無能なナナ』の3分の1ほどが終わりましたが、ここらで振り返り的な記事を書いておこうと思います。真っ当な感想記事ではなく、自分がこの作品をどう観てきたかという自分語り要素と、アニメはこういう感じが実現できたら成功しそうという後方P面要素が多くなると思います。なお、原作のネタバレを含むので未読の方はお気をつけください。私が原作を読んだ経験も踏まえて、これまでのアニメをどう見ているかという話をしていきます。というか原作の話の方が多いです。

 まず、私とこの作品の付き合いについて簡単に述べます。『ナナ』のことはアニメで知りました。ニコニコで第1話が公開されていたので視聴したところ、「原作面白いから読め」といったコメントが多く、当時電子コミックで第1巻が無料だったので読んでみたところ、たしかに面白いなと思って紙で第1巻と第2巻を買いました。第2巻の引きが強かったので、続きが気になって第3-4巻も買いました。第4巻で非常に心を動かされ、この作品は追い続けるぞと決めて、最新巻である第7巻まで一気に買い、電子書籍で『少年ガンガン』のアーカイブをふたつ買って、一気に本誌最新話まで追いつきました(なお、買った後に最新刊のクリアファイル特典のことを知って結局紙でも買いました)。今は毎週日曜夜にアニメをリアタイ視聴して、ツイッターやブログの感想を漁るなどしています。

 アニメ第1話視聴時(まだ作品自体も知らなかった頃)の印象はそれほど良くはありませんでした。ニコニコで観ているので、コメントやタグの雰囲気から、ミスリードを狙った第1話なんだろうなーということは何となく察しており、ナナの本性が明かされても「衝撃の第1話!」とは特になりませんでした。むしろナナオをはじめとするキャラが茶番のためだけに作られている感じがして、少し薄気味悪い印象も受けました。

 『ナナ』自体に興味をもったのは原作の第1巻を読んでからです。第1巻はよくできた構成で、1冊で作品の方向性が分かるようにきれいにまとめられています。アニメでいうとちょうど第3話までですね。まずナナオのエピソードで「無能力者のナナが能力者たちを暗殺していく」という作品の趣旨が伝えられ、渋沢のエピソードで犯人(ナナ)視点での犯行が描かれて殺しの流れが説明され、キョウヤのエピソードで犯人のナナ vs 探偵役のキョウヤという大まかな構図が示されます。ここまで読んで、「これからナナはキョウヤの監視の目をかわしつつどのように立ち回って能力者たちを殺していくんだろう」という素朴なワクワク感が湧いてきました。続く第2-3巻は、ツネキチの話から橘の登場までひと繋がりで、展開的にとても忙しく、単純に「続きが気になる!」という気持ちで読んでいました。

 作品に本格的にハマり始めたきっかけは第4巻です。ベタですが、ミチルとの別れが非常につらく、読んだ後はしばらく何も手につきませんでした(余談ですが、2020年10月というのは私にとって様々な締め切りに追われた月で、『ナナ』の第4巻を読んだことでだいぶ進捗に響きました)。何というか、ナナの今後を見ないとやっていられないという気持ちになりました。第5巻以降でナナが幸せになれるとは期待しないけれど、とにかく何でもいいからその後を見せてほしいという、自分でもよく分からない気持ちです。それで第5巻以降はすごい勢いで読み、本誌最新話に追いつきました。アマプラやニコニコでアニメの第2話を観たのはその後だったかな。第3話からリアタイ勢になりました。

 というわけで、私にとっては第4巻が非常に重要だったわけですが、実際、『ナナ』はミチルのエピソードまででひとつの物語だと思っています。ミチル編が最初のクライマックスで、第3巻まではそのための準備という感じです。ミチル編も、一言で言ってしまえば「ナナが初めて心を開いた相手であるミチルがナナの命を救って死んだ」というベタなお涙頂戴系のあらすじになってしまうわけですが、そこまでの積み重ねがあるから、重みのあるエピソードになっているのだと思います。つまり、ミチルのお話に物語的なクライマックスの役割を担わせるためには、殺人者としてのナナを単行本3巻分使ってじっくり描いておく必要があったわけです。最初の3巻では能力者とナナの戦いがある意味淡々と描かれていて、ナナという人物の内面にはほとんど触れられません。サスペンスものだと、人間ドラマは極力省いてトリックや心理戦・頭脳戦で盛り上げるという作品もありますが、最初の3巻ではその方向性の作品かもしれないなと思わせる余地を残しています。だからこそミチル編でナナの内面が問題となって、ナナが初めてミチルに心を許すシーンが出てくると、話が大きく動いたな、今回のエピソードは重要だなと思うわけです。また、ナナが実際に何人も人を殺し、罪という面ではもはや後戻りができなくなった後でこの話が始まるからこそ、重い話になるわけですね。なので、第4巻より前では『ナナ』という作品のメインストーリーはまだ動き出していないとすらいえる一方で、第1-3巻の描写は第4巻のためにぜひとも必要です。以下、後方P面です。

 『ナナ』は人間ドラマを描かない作品ではないのにもかかわらず、ミチル編より前のエピソードでは人間ドラマをある程度封印する必要があり、かつ、エンタメとしての面白さは保たなければならないということで、『ナナ』の序盤に課せられた要求は結構シビアなものだと言えます。そこで勢いが大切になるわけですね。『ナナ』の序盤は、時間遡行・不老不死・未来予知といった大物能力者を惜しげもなく登場させ、そんなにハイペースで息切れしないかと思うくらい急速にナナを追い詰めることで、人間ドラマ抜きに見どころをたくさん作っています。当然この路線で長くやるのは難しいのですが、『ナナ』は実際にはトリックの精巧さやよく練られた頭脳戦・心理戦がメインの作品ではないので、第4巻での方向転換によって、そうしたハイペースを維持する必要が無くなります。

 『ナナ』はミチルのエピソードまでで一区切りと述べましたが、今回のアニメは、OP等を観る限り、まさにその区切りでやるようです。するといくつか懸念があります。ひとつは、上に述べたような勢いを維持できるかということです。『ナナ』はトリックの精密さなどで売っているわけではないので、ナナの策略をめぐる展開については粗のある点も多いです。現時点でアニメになった部分で言えば、渋沢の能力って色々おかしくないかとか、渋沢を過去に送って殺すための嘘が雑すぎないかとか、ミチルの部屋での自作自演はよく錐が見つからなかったなとか、ナナをリーダーにするにあたってクラスメートちょろすぎないかとか、まあ色々です。で、こうした点はなぜかアニメの方がやたら気になりますね。たぶん、読み進めるペースを自分で調整できる漫画だと、細かいことを気にし出すよりも先に勢いで読み進められますが、アニメだとセリフの読み上げなどに一定の時間を食うので、どうしても間みたいなものが生じ、細部を気にする隙が多く生まれてしまうといったことがあるのだと思います。事実、ネットで感想を漁っているとそうした粗への指摘が散見されます(連載当時の原作の感想と比較していないのでアニメ固有の現象かは分かりませんが、私自身、原作を読んでいて気にならなかったことがアニメで気になり始めるということがありました)。

 これに関しては、展開の速さで補うことができると思います。たとえば渋沢の話は全体的にツッコミどころが多いですが、1話で終わらせ、その後は引っ張らないわけですね(これに対して、後々まで引っ張るナナオ殺しについては比較的描写が丁寧です)。これについては原作でも同様の手が取られていました。また、第4話はかなり話を進めました。もし回のフォーカスがナナの自作自演に当てられていたとしたら、「ベタ」とか「トリックが雑」といった感想がメインになったでしょうが、この回はミチルの紹介・ナナの自作自演・ツネキチ登場・ナナオ殺しの写真提示と非常にやることが多く、中でも、殺人の証拠になりうるものが出てくるというこれまでに無かった要素に注目が集まります。こういうわけで、原作での区切りと違ってナナオの写真のところで終わらせたのはかなり上手いなと思いました。まあそのツネキチに関しても、ナナに近づいた動機や戦闘シーンの描写など、ツッコミどころはあるのですが、次回のタイトルからしてやっぱりvs ツネキチが第5話の一番の見どころになるわけではなく、その後のキョウヤの追及によるピンチに焦点が当たると思うので、ナナの策略すげーを狙うよりは、次から次へと襲ってくるピンチというところで盛り上がりを維持していくのでしょう。ネクロマンサーは絵的に派手なので盛り上がるでしょうし、コンタクトレンズの件を乗り越えて橘にたどり着けば一安心といったところですね。

 もうひとつの懸念は尺です。アニメでは原作の第1巻でちょうど3話分を使っていますが、『ナナ』の原作は第1巻から第4巻にかけて巻を追うごとにページ数が増えており、第4巻に至っては第1巻より100ページくらい多くなっています。なので、第4巻の最後までやるのだとすると、このペースでは尺が足りません。『ナナ』のトリックなどの描写には雑な点もあると述べましたが、第4巻でのナナとミチルの関係描写は非常に丁寧です。他のところはある程度勢いに任せても大丈夫ですが、ミチル編におけるナナの心情描写は時間をかけて丁寧にやらないと話全体が安っぽくなります。それゆえ、第2-3巻の内容を第9話の前半までくらいでものすごい勢いで終わらせ、残りの尺を確保するのが大事になると思います。原作を見返して、アニメではどこで各話を区切るのかなと色々考えるのですが、これに関しては正直予想がつきません(第4話があそこで終わるのも予想していませんでした)。そういう点も楽しみにしつつ今後のアニメを観ていこうと思います。

 それにしても、アニメ全体はどこで区切るんでしょうか? 第4巻をすべてやるのは確定だと思うのですが、第4巻のラストで終わると後味が悪すぎるし、第5巻に入ると新しい話が始まってしまうので、切りどころ(しかも最終回にふさわしい切りどころ)を見つけるのが難しそうです。多少アニオリとかが入ってもおかしくないかもしれませんね。

 これまで放送されてきたアニメに関しては、原作の非常に良いアニメ化になっていると思います。原作の何気ないコマがしっかり拾われていたり、伏線になる描写のカットがいちいち挟まれたりなど、丁寧な印象を受けます。ナナのモノローグにおいて赤っぽい画面に切り替わるといった表現も(キョウヤだと青)、現実の時間進行から切り離してナナの思考を視聴者に見せるということを上手く実現していると思います。上述したように、各話の構成もいいですね。あと、たぶんベテランの方が多いキャスティングですよね(声優業界ではどのくらいやればベテランと言えるのか私には分かりませんが)。大久保瑠美さんは巧みに表裏でのナナの演じ分けをされており、特に第3話での「遠慮なく死んでもらえるな」というセリフに関しては表裏が絶妙に混ざり合った声のニュアンスが表現されていてすごいと思いました。

 以上、主にお話の構成に関わることをメインに、後方P面的なことを書いてきました。最後に、私がお話以外に『ナナ』で好きなところについて話します。それはナナの表情です。ナナは悪い顔・まじめな顔・悲しい顔・ギャグ顔など非常に表情豊かで、キャラとしてとても活き活きして見えます。アニメでもそうした表情の豊かさは、アニメのキャラデザにおいてアレンジされつつ、毎話きちんと描かれています。第3話ラストの引きつり顔は本当に良かったですね。

 というわけで、これまでに述べたような点を気にしつつ、アニメ第5話以降も楽しみにリアタイ視聴したいと思います。また、アニメをご覧になった皆様におかれましては、ツイッターでもブログでも動画でもいいので、ご感想を投稿してくださると私が喜びます。

追記:どうやら全13話らしいですね。12話だとどう頑張ってもきついと思っていましたが、それなら尺足りるかも。